ジョン万次郎の本・伝記・伝記的小説

私のジョン万次郎~子孫が明かす漂流150年目の真実

by 七色カラス on 4月.25, 2010, under ジョン万次郎の本・伝記・伝記的小説

私のジョン万次郎
子孫が明かす漂流150年目の真実
中浜 博 著、 1991年 小学館

土佐の中の浜の漁師の子・万次郎が、宇佐浦から小さな漁船に乗り組み、時化(しけ)に遭って漂流した1841年(天保12年)から、150年目を記念して出版された本である。

サブタイトルにもあるとおり、著者の中浜博氏は、ジョン万次郎(中浜万次郎)のから数えて4代目、曾孫(ひまご)であり、中浜家に伝わる話などを交えて、まさに子孫でなければ知りえない情報をふんだんに用いられている。

ジョン万次郎の子孫による伝記というよりは、研究書として位置づけられるものと思う。著者の中浜博氏ご自身も、あとがきのなかで「伝記と資料集の間を埋める」と表現されている。

私たち一般人にとってこの本が貴重であるなと思うのは、ジョン万次郎が日本に帰国して最初に書かれた漂流記・河田小龍による『漂巽紀略(ひょうそんきりゃく)』や同じく土佐の識者 吉田誉吉による『漂客談奇(ひょうきゃくだんき)』などの図版が掲載され、解説されている点。

また、咸臨丸で、日米修好通商条約の批准書交換のため遣米使節団に随行した際のことも、咸臨丸に同乗し、日本人水夫らの働きを大いに助けたブルック大尉の日記と、日本人側の日記を照らし合わせるなどして詳しく検証している。

また、万次郎を助け、アメリカで教育を受けさせてくれたホイットフィールド船長の子孫とも世代を超えた長いお付き合いをされているご様子も描かれている。 私が持っている版の巻頭にはジョン万次郎とホィットフィールド船長の肖像と、それぞれの家系図が掲載されている。

それから、「坂本龍馬」本には人斬り以蔵として登場する 岡田以蔵 が、勝海舟から命じられて、ジョン万次郎の警護をしていたという話なども書いてあり、驚いた。

以上、列挙した点からも察せられると思うが、ジョン万次郎のことを伝記や伝記的小説で、ある程度知っている人が読むと、「あぁ、あのことはそういうことだったのか」とか、「へぇ~、そうだったのか」とか、驚きと新たな発見ができる本だと思う。

1 Comment more...

ジョン万次郎 ~日本を開国に導いた陰の主役~

by 七色カラス on 4月.18, 2010, under ジョン万次郎の本・伝記・伝記的小説

ジョン万次郎 ~日本を開国に導いた陰の主役~
星 亮一 著、 1999年 PHP文庫

まさに、サブタイトルのとおり ~日本を開国に導いた陰の主役~ なんですよ。ジョン万次郎は。と、個人的に思うのです。

だから、幕末の激動の中での、ジョン万次郎と幕末の志士たちとの交流、そして万次郎が彼らに与えた影響、そう考えるととってもいい視点で書かれているなと思います。

ちょっと残念なのは、方言(土佐弁や、薩摩弁、江戸弁)と侍言葉、そして現代語との使い分けが、文章の中でケンカしてしまっている気がします。

ただ、これは、私個人が、方言バリバリの津本陽作品『椿と花水木』を最初に読んだ から、そう感じるのかもしれません。

本書、星 亮一 氏の『ジョン万次郎 ~日本を開国に導いた陰の主役~』の巻頭には、幕末の西日本地図が土佐、薩摩などなど、当時の国名入りで掲載されていますし、巻末には1ページの簡潔な「ジョン万次郎」関係年表がついてます。

だから、はじめてジョン万次郎の小説を読む人にとっては、この本のほうが親切なのかもしれない。

Leave a Comment more...

ジョン万次郎漂流記

by 七色カラス on 4月.17, 2010, under ジョン万次郎の本・伝記・伝記的小説

ジョン万次郎漂流記
井伏鱒二 著、1999年 偕成社文庫

私の手元にあるのは、1999年に偕成社文庫として、「ジョン万次郎漂流記」の他、「山椒魚」、「屋根の上のサワン」など井伏鱒二 作品 5編を収録した版。

オリジナルの井伏鱒二の「ジョン万次郎漂流記」は、昭和12年(1937年)に刊行され、翌 昭和13年に直木賞を受賞している。

現在、私のような一般人が手にすることができる最も古い ジョン万次郎の本 のひとつだろう。

その古さに興味津々で読んでみた。

ジョン万次郎という人物を、どう表現しているのだろうかと。

読んでみて、ジョン万次郎という人物そのものの表現よりも、文章全体にわたっての現代の小説との表現方法というか文体の違いに面白さを感じた。

大げさだだけど、自分も少し江戸時代末期の感覚に近づいたかな? と。

というのは、ジョン万次郎ら漂流民を助けたホィットフィールド船長をはじめ、異国人(特に身分が高い人々)のセリフがお奉行様言葉なんですよ。

例えば、ホィットフィールド船長のセリフとして「拙者は、そのほうらに告げる。拙者は…」という具合。

アメリカ人が、「拙者は…」とは言わないだろう。。。

これ、最初は変に思ったのだけど、ある意味、的を得た表現なんじゃないかなと思った。

つまり、初めて見る異国人、しかも船長らしき身分の高そうな人、さらに互いに言葉が通じない。当然、相手は英語でしゃべっている。

とすると、身振り手振りで、どうにか意味を理解した万次郎達は、心の中で日本語にしているわけで、そうすると、江戸時代ですから、土佐弁か、お侍言葉しかないわけで、双方の身分から考えれば、当然、相手の英語を、心の中でお奉行様言葉として思い浮かべていても不思議はないなぁ。と思ったわけです。

当然、この小説が書かれた昭和12年という時代の文体ということもあるのかもしれないけど。

それから、この本の あとがき でも触れられていますが、昭和12年という日中戦争勃発から太平洋戦争へ向かっていこうとしている時代に、よくこの小説を発表できたなぁという感想を持ちました。

いくら江戸時代末期~明治時代の人物の話とはいえ、アメリカ(と海に)に10年も学んで、江戸幕府の国禁(鎖国令)を冒して生きて帰ってきた人々の物語なんですよ。

戦争が拡大していって、言論統制が強まろうとしている真っ只中の刊行だったんだろうなぁと想像すると、ただただ、凄いなと思うのでした。

あと、余談ですが、やっぱり、香川照之さんなら演じられる。 いつの日か香川照之さんにジョン万次郎を演じて欲しいと思いました。

他のジョン万次郎の伝記や伝記的小説にもあるように、ジョン万次郎がフェアヘブンのバートレットアカデミーという私塾でアメリカの子供たちと机を並べるシーンがあるんですが、ジョン万次郎はこのとき17歳ぐらいで、周りの子供たちは小学生くらいだったらしいんですね。

色の黒い日本人のちょっとお兄さんの”香川照之”万次郎が、アメリカの小学生たちと机を並べて楽しそうに学んでいるシーンが眼に浮かびましたよ。

ものすごく自然に。溶け込んでた。私のイメージの中では。(笑)

Leave a Comment more...

椿と花水木 ~ 万次郎の生涯

by 七色カラス on 4月.16, 2010, under ジョン万次郎の本・伝記・伝記的小説, 津本陽

椿と花水木 ~ 万次郎の生涯
津本陽 著,  1996 新潮文庫

ご存知ジョン万次郎の生涯を、その幼少時代からアメリカへ渡るいきさつ、アメリカ時代、 そして日本で待ち受けるさまざまな出来事、そして旧友との再会等々、 感情豊かに描くジョン万次郎の伝記の最高傑作。 津本陽氏の作品はみんなそうだが、まるでジョン万次郎が目の前にいるかのような錯覚を覚えるほど 情緒豊かに描かれている。史実にも客観的で、かつアメリカでのラブロマンス、そしてアドベンチャー。 夢と歴史の世界に浸りたいときにお勧めの一冊。ジョン万次郎の本といえばこの一冊。

※ 心に残った一行 ※
遭難しジョン・ハウランド号に救助され、ハワイ・オアフ島での別れのシーン。 「万次郎が筆乃丞の言葉を伝えると、キャプテンはうなずき、彼の目をのぞきこむ。 『お前や、どうすりゃ』『わえはキャプテンといっしょにいきたい』


HTML版 書評・レビュー 椿と花水木 ~ 万次郎の生涯 より、手元にあるジョン万次郎 関連の本の書評をまとめてアップする機会に転載。

この本 『椿と花水木 ~ 万次郎の生涯』は、病気で入院中に、病院の売店で何の気なしに手に取ったものでした。

「治るのだろうか?」、 「仮に退院できたとしても、仕事に復帰できるのだろうか?」という不安を、この本を読んでいる間だけは忘れさせてくれました。

それ以来、何か落ち込むようなことがあった時や、先が見えないような何かにぶつかったときには、必ずといっていいほど、この本を読みました。カバンにいつも入れて歩いて。 そのせいで、もうボロボロです。

何度も読んだせいか、歳をとったせいか、今現在の心に残る一行をあげるとしたら、万次郎が十数年ぶりに土佐に帰って、お母さんと再会するシーンです。

歳はとりたくないなぁ (笑)

ところで、ほんとに余談ですが、この本を読み終えたとき、この『椿と花水木 ~ 万次郎の生涯』を原作にして、NHK大河ドラマにでもして欲しいなぁと思った。

そして、2002年のNHK大河ドラマ「利家とまつ」の豊臣秀吉役で香川照之さんを初めて知ったとき、「あ、この人にジョン万次郎を演じて欲しい」と思いました。 なんかぴったりなんですよね。イメージが。

NHK大河ドラマで一年間は難しいかもしれませんが、土曜ドラマ枠とか、NHKスペシャルドラマ枠あたりで、ジョン万次郎の話をNHKにドラマ化して欲しいなぁ。 ドラマのイメージとしては、「 菜の花の沖(司馬遼太郎著) 」を竹中直人さん主演でドラマ化したときのようなイメージでしょうかね。

1 Comment more...