穴のあいた大風呂敷、後藤象二郎 「竜馬がゆく」より

by 七色カラス on 3月.21, 2010, under 司馬遼太郎, 歴史、時代小説

「竜馬がゆく」 司馬遼太郎 著 より、後藤象二郎という人物の描き方を通して、司馬遼太郎氏の「竜馬がゆく」のスポット的書評を書いてみます。

この後藤象二郎という人物の評価は、後藤象二郎 – Wikipedia などをみると、一方では幕末の雄とされ、一方では「将来の総理大臣(武市半平太)を殺した者」という悪評もあって、評価は大きく分かれる。

その後藤象二郎という人物が、小説「竜馬がゆく」で活躍し始めるのは、物語も終盤、土佐藩が坂本龍馬を支援する方向に転換し、龍馬が海援隊を組織するあたりから。

小説の中で、後藤象二郎は「穴のあいた大風呂敷」と表現されている。 つまり、言においては、大風呂敷を広げて、大いに景気のいい気勢をあげるが、その行動においては、大雑把で、広げた大風呂敷の大きな穴に、皆はめられてしまうような、そんな人物として描かれている。

例えば、外国商人から、洋式船、軍艦、洋式銃などを購入するときには、気前よく高値で大量に買い付けるようなことをし、手付金を支払ってあとは支払わない。それどころか、それらの支払いに当てるべき藩の金の大半を酒と芸者遊びにつぎ込んでしまうようなことをする。

さらには、その負債の整理は、長崎留守居役(土佐商会の長)に自らが抜擢した岩崎弥太郎に全部ひっかぶせる。弥太郎も大風呂敷の大穴にはめられた一人だ。

それでいて、駆け引きにはめっぽう強くて、柔硬変幻。 また、佐幕派の土佐藩にあって、かつては尊皇攘夷派の武市半平太ら土佐勤王党を弾圧した張本人でありながらも、最終的には、尊王、開化論の思想に方向転換し、明治維新に貢献することになる。

ここに書いたのは、あくまで小説「竜馬がゆく」で読んだ後藤象二郎という人物についての印象だ。 司馬遼太郎氏の人物の描き方に惹き込まれてしまうと、後藤象二郎という、評価が大きく分かれる人物が、大胆不敵でひどく魅力的に思えてしまう。

司馬遼太郎氏の人物の描き方というのが、その人物を小説の中でいかに魅力的に演じさせるか、そして、いかに読み手の側に強烈なインパクトを与えるかという点で、小説「竜馬がゆく」の面白さの一因でもあり、司馬遼太郎氏の小説の魅力の大きな要素なのだと思う。



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