ジョン万次郎漂流記

by 七色カラス on 4月.17, 2010, under ジョン万次郎の本・伝記・伝記的小説

ジョン万次郎漂流記
井伏鱒二 著、1999年 偕成社文庫

私の手元にあるのは、1999年に偕成社文庫として、「ジョン万次郎漂流記」の他、「山椒魚」、「屋根の上のサワン」など井伏鱒二 作品 5編を収録した版。

オリジナルの井伏鱒二の「ジョン万次郎漂流記」は、昭和12年(1937年)に刊行され、翌 昭和13年に直木賞を受賞している。

現在、私のような一般人が手にすることができる最も古い ジョン万次郎の本 のひとつだろう。

その古さに興味津々で読んでみた。

ジョン万次郎という人物を、どう表現しているのだろうかと。

読んでみて、ジョン万次郎という人物そのものの表現よりも、文章全体にわたっての現代の小説との表現方法というか文体の違いに面白さを感じた。

大げさだだけど、自分も少し江戸時代末期の感覚に近づいたかな? と。

というのは、ジョン万次郎ら漂流民を助けたホィットフィールド船長をはじめ、異国人(特に身分が高い人々)のセリフがお奉行様言葉なんですよ。

例えば、ホィットフィールド船長のセリフとして「拙者は、そのほうらに告げる。拙者は…」という具合。

アメリカ人が、「拙者は…」とは言わないだろう。。。

これ、最初は変に思ったのだけど、ある意味、的を得た表現なんじゃないかなと思った。

つまり、初めて見る異国人、しかも船長らしき身分の高そうな人、さらに互いに言葉が通じない。当然、相手は英語でしゃべっている。

とすると、身振り手振りで、どうにか意味を理解した万次郎達は、心の中で日本語にしているわけで、そうすると、江戸時代ですから、土佐弁か、お侍言葉しかないわけで、双方の身分から考えれば、当然、相手の英語を、心の中でお奉行様言葉として思い浮かべていても不思議はないなぁ。と思ったわけです。

当然、この小説が書かれた昭和12年という時代の文体ということもあるのかもしれないけど。

それから、この本の あとがき でも触れられていますが、昭和12年という日中戦争勃発から太平洋戦争へ向かっていこうとしている時代に、よくこの小説を発表できたなぁという感想を持ちました。

いくら江戸時代末期~明治時代の人物の話とはいえ、アメリカ(と海に)に10年も学んで、江戸幕府の国禁(鎖国令)を冒して生きて帰ってきた人々の物語なんですよ。

戦争が拡大していって、言論統制が強まろうとしている真っ只中の刊行だったんだろうなぁと想像すると、ただただ、凄いなと思うのでした。

あと、余談ですが、やっぱり、香川照之さんなら演じられる。 いつの日か香川照之さんにジョン万次郎を演じて欲しいと思いました。

他のジョン万次郎の伝記や伝記的小説にもあるように、ジョン万次郎がフェアヘブンのバートレットアカデミーという私塾でアメリカの子供たちと机を並べるシーンがあるんですが、ジョン万次郎はこのとき17歳ぐらいで、周りの子供たちは小学生くらいだったらしいんですね。

色の黒い日本人のちょっとお兄さんの”香川照之”万次郎が、アメリカの小学生たちと机を並べて楽しそうに学んでいるシーンが眼に浮かびましたよ。

ものすごく自然に。溶け込んでた。私のイメージの中では。(笑)


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