かくして冥王星は降格された

by 七色カラス on 1月.14, 2010, under 自然科学

かくして冥王星は降格された
太陽系第9番惑星をめぐる大論争のすべて
ニール・ドグラース・タイソン 著、吉田三知世 訳、 早川書房

2006年8月24日、国際天文学連合(IAU)総会での最終投票の結果、冥王星は準惑星へと降格された。 このニュースを知ったとき、私自身、とんでもなくびっくりした記憶がある。

「水、金、地、火、木、土・天(どってん)、海、」 と口ずさんで覚えた惑星の座から、冥王星がいなくなってしまう。

この決定が国際天文学連合(IAU)でなされたのは、2006年だが、水面下では様々なそれ以前から議論がされていたようである。 その渦中の人物であった著者が、当時の騒ぎの発端から、いきさつ、経緯などを、当時の新聞記事や電子メールでの議論、アメリカ中の小学生からの手紙などを交えながら振り返ってゆく。

著者のタイソン氏は、この議論が一般(すくなくともアメリカ)の人々に注目され始めた当時、ニューヨークにある自然史博物館の天文部門・ヘイデンプラネタリウムの館長として、ローズ地球宇宙センターの展示をリニューアルすべくスタッフと議論を重ね、2000年のリニューアルオープンにこぎつけた。 この展示内容は慎重に議論を重ねて、太陽系に関する展示も、通常よく見られるような、太陽系の惑星を、水星、金星、地球と順番にならべた展示ではなかった。密度が高く、岩石を主成分とする地球型惑星、非常に大きくガスを主成分とする木星型惑星、そして、件の冥王星が含まれるカイパー・ベルト天体(海王星よりも外側の軌道で、氷を主成分とする天体)など、従来の惑星の展示方法とは異なったものだった。

このリニューアル展示から1年近く経った2001年1月22日、『冥王星が惑星じゃない? そんなのニューヨークだけだ』 という見出しがNew York Times の紙面を飾った。

ローズ地球宇宙センターの展示は、「冥王星を降格した」展示では決してなかったのだが、この記事をきっかけに、著者のタイソン氏は、「冥王星を惑星から除外しようとしている張本人」とも言えるべき悪者にされてしまい、前述の新聞記事や、電子メール、全米各地の小学生からのメール、インターネットのニュースグループなどなどで、果てしない議論の嵐に巻き込まれれゆく。

それにしても、アメリカというのは、自由で活発な議論の出来るお国柄だなと改めて思う。 著者のタイソン氏のご苦労は、想像を絶するものだったと思うが、引用されている様々な議論を読むと、ユーモアあり、子供たちの純粋な心の叫びあり、もちろん科学的な討論もあり、なんだかうらやましくも思えてくる。

そのような騒動と平行して、国際天文学連合(IAU)をはじめとする科学的議論(科学的ではないという反論もある)も進んでいって、2006年の冥王星を準惑星に降格という投票結果に至るのだが、この間の科学的議論についても余すところなく記述されていて、ある立場に立てば、「そういうことだったのか」と納得できる。

また、冥王星以外の太陽系の天体の発見に至る経緯なども記述されているので、例えば、火星と木星の間にある小惑星帯で、今で言う小惑星が次々と発見されたとき、一度はそれらが惑星として分類されていたことや、実は、「惑星とは何ぞや」という定義が2006年の決議まで存在しなかったことなど、「えっ」と驚く事実もあった。

あと、日本では、「水、金、地、火、木、土・天(どってん)、海、」と覚えるが、アメリカ英語では、例えば、My Very Educated Mother Served Us Nine Pizzas (一例) と語呂合わせをして覚えるといったこととか、冥王星(Pluto)発見前、1920年代のアメリカでは、Pluto と言えば、「30分から2時間で、便秘を解消。プルート・ウォーター」という温泉から瓶詰めにしたミネラル・ウォーターの下剤のことだったとか、冥王星降格議論を皮肉った新聞記事のユーモアあふれる見出しなど、面白い逸話がたくさん出てくる。


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