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プレミアム8 伝統芸能の若き獅子たち – 茂山宗彦

by 七色カラス on 3月.23, 2010, under TV番組(ドキュメンタリー・教養)

プレミアム8<文化・芸術> シリーズ伝統芸能の若き獅子たち – 茂山宗彦
NHK BS hi 2010年3月22日 放送

茂山宗彦
いまこそ狂言師の賭け時
狂言師 茂山宗彦(しげやま もとひこ)さんの挑戦を描いたドキュメンタリー。 茂山宗彦さんは、芸歴30年を契機に狂言の中でも最も難しい「花子(はなご)」に挑んだ。 伝統の技を引き継ぎ、自分の個性を出そうと必死にもがく500日間を追った。

茂山宗彦さんと言えば、NHKの朝ドラ ちりとてちん』での徒然亭小草若が思い浮かびます。 このプレミアム8の冒頭でも、『ちりとてちん』の映像が紹介されていて懐かしかった。

今まで狂言を観たことはなかったけど、この番組で、茂山宗彦さんの日常と、狂言師という職業に打ち込む姿がすごくバランスよく描かれていて、いい番組を観たなぁという感想です。

狂言の舞台も見に行きたくなりました。

凄いなと思ったのは、「仕事を家に持ち込まない」という姿勢。 「仕事を家に持ち込まない」というのは、サラリーマンでもよく言う人がいるけど、茂山さんの場合、その言葉を実践するために、一人で稽古するときは、鴨川のほとり(つまり屋外)で、謡の稽古をしているのでした。

それと、びっくりしたのは、宗彦さんの父・茂山七五三(しげやま しめ)さんは、40歳まで、銀行員として働きながら狂言をやっていたんだそうです。 今ほど狂言に人気がなくて、狂言だけでは食べていけなかったんだそうです。

茂山宗彦さんが、朝ドラ『ちりとてちん』のなかで、「俺ら、若いもんはTVの仕事がなかったら、落語だけでは食っていけんのや」というような徒然亭小草若のセリフがありましたが、まさにそのまんまです。

番組では、茂山さんの日常、狂言の稽古、舞台公演の様子、「花子」という最も難しいといわれる演目に挑む500日が、非常にバランスよく描かれていて、面白かった。

面白かったといえば、番組中で、茂山宗彦さんの2回目の結婚式の様子が流れていましたが、夫婦の誓いの場面で、「この方(宗彦さん)は、数年前に神への誓いを守れませんでした。それでもあんたはんは…」と新婦に問うという、結婚式まで”笑い”にしてしまう。 素晴らしいですね。

いい番組でした。

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穴のあいた大風呂敷、後藤象二郎 「竜馬がゆく」より

by 七色カラス on 3月.21, 2010, under 司馬遼太郎, 歴史、時代小説

「竜馬がゆく」 司馬遼太郎 著 より、後藤象二郎という人物の描き方を通して、司馬遼太郎氏の「竜馬がゆく」のスポット的書評を書いてみます。

この後藤象二郎という人物の評価は、後藤象二郎 – Wikipedia などをみると、一方では幕末の雄とされ、一方では「将来の総理大臣(武市半平太)を殺した者」という悪評もあって、評価は大きく分かれる。

その後藤象二郎という人物が、小説「竜馬がゆく」で活躍し始めるのは、物語も終盤、土佐藩が坂本龍馬を支援する方向に転換し、龍馬が海援隊を組織するあたりから。

小説の中で、後藤象二郎は「穴のあいた大風呂敷」と表現されている。 つまり、言においては、大風呂敷を広げて、大いに景気のいい気勢をあげるが、その行動においては、大雑把で、広げた大風呂敷の大きな穴に、皆はめられてしまうような、そんな人物として描かれている。

例えば、外国商人から、洋式船、軍艦、洋式銃などを購入するときには、気前よく高値で大量に買い付けるようなことをし、手付金を支払ってあとは支払わない。それどころか、それらの支払いに当てるべき藩の金の大半を酒と芸者遊びにつぎ込んでしまうようなことをする。

さらには、その負債の整理は、長崎留守居役(土佐商会の長)に自らが抜擢した岩崎弥太郎に全部ひっかぶせる。弥太郎も大風呂敷の大穴にはめられた一人だ。

それでいて、駆け引きにはめっぽう強くて、柔硬変幻。 また、佐幕派の土佐藩にあって、かつては尊皇攘夷派の武市半平太ら土佐勤王党を弾圧した張本人でありながらも、最終的には、尊王、開化論の思想に方向転換し、明治維新に貢献することになる。

ここに書いたのは、あくまで小説「竜馬がゆく」で読んだ後藤象二郎という人物についての印象だ。 司馬遼太郎氏の人物の描き方に惹き込まれてしまうと、後藤象二郎という、評価が大きく分かれる人物が、大胆不敵でひどく魅力的に思えてしまう。

司馬遼太郎氏の人物の描き方というのが、その人物を小説の中でいかに魅力的に演じさせるか、そして、いかに読み手の側に強烈なインパクトを与えるかという点で、小説「竜馬がゆく」の面白さの一因でもあり、司馬遼太郎氏の小説の魅力の大きな要素なのだと思う。


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ゲゲゲの女房

by 七色カラス on 3月.13, 2010, under 自伝・エッセイ

ゲゲゲの女房
人生は…終わりよければ、すべてよし!!
武良 布枝(むら ぬのえ)著、 2008年3月 実業之日本社

2010年4月スタート(3月29日放送開始)のNHK朝ドラ『ゲゲゲの女房』の原作。

「ゲゲゲの鬼太郎」の作者・水木しげるさんの奥様・武良 布枝(むら ぬのえ)さんの自伝。

島根県 安来(やすぎ)市 生まれ育った布枝さんが、子供のころ、おばあちゃんから色々な怖いお話をしてもらうあたりから物語は始まる。

大人になって、目と鼻の先ともいえる鳥取県境港市出身の売れない漫画家 水木しげるさんとお見合い結婚する。

お見合いから、わずか5日で結婚式というスピード結婚。

当時のエピソードを水木しげる氏ご自身が描いた漫画(他の本で刊行されたものなど)が、そこかしこに差し込まれていて、思わず笑ってしまう。

ゆったりとした語るような文章で、水木しげるさんと奥様の、当時のエピソードが目に浮かぶよう。

特に『ゲゲゲの鬼太郎』がヒットする以前の極貧生活を、時に涙を流しつつ、時に水木さん流 極貧の楽しみ方に一緒にはまって熱中してしまったり、つらい生活の中でも、仲むつまじい夫婦の生き様がほっこりと描かれている。

この書評ブログを書いている私自身からすると、水木さん夫妻が、ちょうど私の両親の世代と大体同じなので、うちの両親が結婚した当時もこんなだったんだろうか?とか。あ、そうそう、自分が子供の頃も、そんなことあったよなぁ、などと懐かしく感じる場面もありました。

それに、「ゲゲゲの鬼太郎」のことはテレビアニメで観て知っていましたけれども、水木しげるさんやご家族のことはほとんど知らないわけですから、この本を読んで、奥様や水木さんのご苦労をたくさん知りました。楽しいエピソードもたくさん知りました。

「あぁ、これは朝ドラにもなるわいな」とも実感しました。

そして、貧乏だろうが、豊かだろうが、大事なものは何なのか、ということも少しわかったような気がします。

また、読み進むうちに、この場面は、朝ドラ主役の松下奈緒さんはどうゆう風に演じるのだろうか? とか考えて、楽しみになりました。

読みやすくて、すーっと読めてしまう作品。

【おまけ】挿入されている水木しげるさんの作品の一部
水木しげるさん自身による自伝マンガ
ボクの一生はゲゲゲの楽園だ〈1〉―マンガ水木しげる自叙伝

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失われた20年

by 七色カラス on 3月.07, 2010, under 政治・経済・経営

失われた20年
朝日新聞「変転経済」取材班 編, 岩波書店, 2009年2月 発行

2007年5月~2008年5月までの1年間、朝日新聞の経済面に連載した「変転経済-証言でたどる同時代史(計48回)」の約半分を選んで加筆し、2008年秋以降の動きを新たに書き下ろしたもの。

失われた20年の節目節目の事件や出来事を、政治家や官僚など、当時のキーパーソンが何を思いどう動いていたのか、ドキュメンタリータッチで、関係者の証言を交えて、時々刻々と伝える形式なので、流れがつかみやすい。

失われた20年のキーとなるそれぞれのエピソードで、当事者の受けた衝撃がよく伝わってくる。

まるで、

  • 幕末のペリー来航と開国
  • 太平洋戦争敗戦とGHQ主導による復興

を時代を変えて読んでいるような印象を受けた。

ただ、違うのは、現代の日本が、いまだ「明治維新」や「戦後復興から高度経済成長」に相当するポジティブな転換を見出せていないところ。

あるいは、非常によい戦略、施策を実行寸前で思いもよらぬファクターによって転換に失敗しているところ。

「この事件が起きたときには、自分はあの仕事をしていたな」などと思い起こしながら、読み進むと、あの時、あの時代に、金融や世界市場の裏舞台でこんな出来事が起きていたのかと、改めて、自分の無知を思い知らされた。

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「明治」という国家

by 七色カラス on 1月.28, 2010, under 司馬遼太郎, 歴史、時代小説

「明治」という国家
司馬遼太郎 著、日本放送出版協会

NHKスペシャル 司馬遼太郎トークドキュメント『太郎の国の物語』(1989年放送) を改題し書籍化したもの(らしい)

とても読みやすく、わかりやすかった。

表紙を開けて、30ページ近くもあるかと思われる写真や図版入りの口絵にざっと目を通しただけで、司馬遼太郎氏が描こうとしていた幕末、明治維新、明治国家への流れが見えたかのような気になってしまうほど。

それまでバラバラな点だった人物や出来事が、一本の線になったような感覚。

なにしろ、この本を手に取る以前の私の頭の中は、 菜の花の沖』を読んで 、江戸後期におけるロシアの脅威を知り、大河ドラマ『篤姫』の幕末と明治維新、大河ドラマ『龍馬伝』の幕末、NHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』の明治国家、の人物や出来事が、私の頭の中でバラバラにぶつかりあっていたのだから。 そのバラバラな点が一本の線でつながったような感覚だ。

明治時代は、1868年から1912年までの44年間 だけれども、この本では、明治10年ごろまでの明治の草創期(あるいは明治22年の明治憲法発布までとも捉えられる)を中心として描き、今日まで続く近代日本の基礎として語れている。

司馬遼太郎氏の言葉をそのまま引用すると:

私がこれからお話しすることは、明治の風俗ではなく、明治の政治のこまかいことではなく、明治の文学でもなく、つまりそういう専門的な、あるいは各論といったようなことではないんです。「明治国家」のシンというべきものです。

とある。
また、別の項では、

私は、明治国家というもの一個の立体物のような、この机の上に置いてたれでもわかるように話したいのです。はじめて出会った外国の人に説明しているような気持で話そうと思っています。

とも書かれている。

まさにそのとおりで、明治時代すべての事柄が書かれているわけではなく、明治の草創期を中心として、明治国家の成り立ちとその道のりを、江戸時代からの遺産も含めて説明している。

面白かったのは、明治維新を成し遂げた新政府に新国家の”青写真”がなかったという章。 明治元年から明治4年ごろまでの話として、
どうゆう政治のポストを設け、役所はどうして、軍はどうして、というのがわからなかった。 わからないからしょうがないといって、明治4年秋、岩倉具視使節団が、欧米を見学に行く。 というあたり。

そして、その新国家の”青写真”を持っていたのは、坂本龍馬だけではなかったかと問いかける。

それから、自分自身、受験勉強の丸暗記というのは無知だなと実感したのは、明治4年の廃藩置県の話。

藩が県に変わるという名称の問題だけではなく、藩がなくなれば藩主(殿様)をも必要としなくなり、それにつかえる藩士・武士(侍)も、一夜にして失業するという劇薬。 その廃藩置県で、武士を失業した侍が、別の職業を生業(なりわい)としながら困窮を乗り越えようという姿が、『坂の上の雲』の冒頭でも描かれた世界を解説されている。

明治維新以前、他のどの国とも違う、孤立した独自の国家であった日本が、明治維新以来の約20年で憲法を発布し、国会を開設した。 その道半ばで、明治10年、11年にかけて、西郷隆盛大久保利通木戸孝允(桂小五郎)という人物を失いながら、明治国家を作り上げていくことが、いかに苦しい道のりであったかということが鮮明に理解できた気がした。

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かくして冥王星は降格された

by 七色カラス on 1月.14, 2010, under 自然科学

かくして冥王星は降格された
太陽系第9番惑星をめぐる大論争のすべて
ニール・ドグラース・タイソン 著、吉田三知世 訳、 早川書房

2006年8月24日、国際天文学連合(IAU)総会での最終投票の結果、冥王星は準惑星へと降格された。 このニュースを知ったとき、私自身、とんでもなくびっくりした記憶がある。

「水、金、地、火、木、土・天(どってん)、海、」 と口ずさんで覚えた惑星の座から、冥王星がいなくなってしまう。

この決定が国際天文学連合(IAU)でなされたのは、2006年だが、水面下では様々なそれ以前から議論がされていたようである。 その渦中の人物であった著者が、当時の騒ぎの発端から、いきさつ、経緯などを、当時の新聞記事や電子メールでの議論、アメリカ中の小学生からの手紙などを交えながら振り返ってゆく。

著者のタイソン氏は、この議論が一般(すくなくともアメリカ)の人々に注目され始めた当時、ニューヨークにある自然史博物館の天文部門・ヘイデンプラネタリウムの館長として、ローズ地球宇宙センターの展示をリニューアルすべくスタッフと議論を重ね、2000年のリニューアルオープンにこぎつけた。 この展示内容は慎重に議論を重ねて、太陽系に関する展示も、通常よく見られるような、太陽系の惑星を、水星、金星、地球と順番にならべた展示ではなかった。密度が高く、岩石を主成分とする地球型惑星、非常に大きくガスを主成分とする木星型惑星、そして、件の冥王星が含まれるカイパー・ベルト天体(海王星よりも外側の軌道で、氷を主成分とする天体)など、従来の惑星の展示方法とは異なったものだった。

このリニューアル展示から1年近く経った2001年1月22日、『冥王星が惑星じゃない? そんなのニューヨークだけだ』 という見出しがNew York Times の紙面を飾った。

ローズ地球宇宙センターの展示は、「冥王星を降格した」展示では決してなかったのだが、この記事をきっかけに、著者のタイソン氏は、「冥王星を惑星から除外しようとしている張本人」とも言えるべき悪者にされてしまい、前述の新聞記事や、電子メール、全米各地の小学生からのメール、インターネットのニュースグループなどなどで、果てしない議論の嵐に巻き込まれれゆく。

それにしても、アメリカというのは、自由で活発な議論の出来るお国柄だなと改めて思う。 著者のタイソン氏のご苦労は、想像を絶するものだったと思うが、引用されている様々な議論を読むと、ユーモアあり、子供たちの純粋な心の叫びあり、もちろん科学的な討論もあり、なんだかうらやましくも思えてくる。

そのような騒動と平行して、国際天文学連合(IAU)をはじめとする科学的議論(科学的ではないという反論もある)も進んでいって、2006年の冥王星を準惑星に降格という投票結果に至るのだが、この間の科学的議論についても余すところなく記述されていて、ある立場に立てば、「そういうことだったのか」と納得できる。

また、冥王星以外の太陽系の天体の発見に至る経緯なども記述されているので、例えば、火星と木星の間にある小惑星帯で、今で言う小惑星が次々と発見されたとき、一度はそれらが惑星として分類されていたことや、実は、「惑星とは何ぞや」という定義が2006年の決議まで存在しなかったことなど、「えっ」と驚く事実もあった。

あと、日本では、「水、金、地、火、木、土・天(どってん)、海、」と覚えるが、アメリカ英語では、例えば、My Very Educated Mother Served Us Nine Pizzas (一例) と語呂合わせをして覚えるといったこととか、冥王星(Pluto)発見前、1920年代のアメリカでは、Pluto と言えば、「30分から2時間で、便秘を解消。プルート・ウォーター」という温泉から瓶詰めにしたミネラル・ウォーターの下剤のことだったとか、冥王星降格議論を皮肉った新聞記事のユーモアあふれる見出しなど、面白い逸話がたくさん出てくる。

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聞き屋 与平 江戸夜咄草

by 七色カラス on 1月.08, 2010, under 歴史、時代小説

聞き屋 与平
江戸 夜咄草(えど よばなし ぐさ)
宇江佐 真理 著、 集英社

夜な夜な「お話、聞きます」と掲げた机を辻に出し、客の話を聞く男。 聞き屋 与平。 辻占(占い師)と間違われることもあるという。 料金は、客の志でかまわない。都合が悪ければタダでもいい。

ただ客の話を聞くだけ。 そんな不思議な商売、聞き屋。 舞台は、江戸の両国広小路界隈。

何気なく手に取ったこの小説が、面白い! 読みやすい! 一気に読んでしまった! はまってしまった。

NHKの土曜時代劇あたりでシリーズ化してくれないか というような感じ。

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日本はなぜ貧しい人が多いのか

by 七色カラス on 1月.05, 2010, under 政治・経済・経営

日本はなぜ貧しい人が多いのか 「意外な事実」の経済学
原田 泰 著、 新潮選書

  • 日本の地方にはなぜ豪邸街がないのか
  • 給食費を払わないほど日本人のモラルは低下しているのか
  • 若年失業は構造問題なのか
  • 「均等法格差」は拡大したのか
  • 地域間の所得格差は拡大したのか
  • 世界に開かれることは厄介なのか
  • なぜ中国は急速な成長ができるのか
  • 企業の利益は、なぜ2007年まで復活していたのか
  • 「大停滞」の犯人はみつかったのか

などなど、章見出し、項見出しをあえて区別せずに、興味深い項目を列挙した。 これらの各項目について、様々なデータと、データの分析方法を変えてみて、違う視点で「果たして本当にそうだろうか?」と見直してみる。

必ずしも答えが出ている項目ばかりではないけれども、いろいろな統計指標というものは、用途に応じて、元になるデータ、分析方法、分析の対象とする期間などを変えてみる必要があることがよくわかる。

たとえば、若年層の失業率というもの、時系列にみてみると、いつの時代でも、若年以外の全体の失業率に比例しているのである。 だから、今、若者の失業率が高いというのは、各世代全体に失業率が高い(要するに不景気)ことでほぼ説明がついてしまうという。若者の就業に対する考え方が急に変わったわけではないのである。

痛快でもある。

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菜の花の沖

by 七色カラス on 1月.03, 2010, under 司馬遼太郎, 歴史、時代小説

菜の花の沖
2000年 文春文庫 (昭和62年に刊行された文庫の新装版)

一人のいじめられっ子の少年が村を抜け出していく、幼いころの名をキッキャ(菊弥)、後の名は、高田屋 嘉兵衛。 裸一貫から、蝦夷地(現在の北海道)、函館(箱館)を基地として、クナシリ島、エトロフ島までへも船を出し、廻船業、水産物問屋業、漁場経営を成功させる江戸時代後期の物語。
NHK でも同名の『菜の花の沖』としてドラマ化されている。

高田屋 嘉兵衛の成功にとって、嘉兵衛の兄弟達の功績、駆け出しの嘉兵衛を預かってくれたサトニラさんこと境屋喜兵衛の息子達の功績も大きかったのではないだろうか。

特に、優れた船頭でもあり商売に長けた弟・金兵衛の存在、商いの面をこの弟に任せることが出来たからこそ、嘉兵衛が冒険者として動き回れた。
同じような関係として、豊臣秀吉と豊臣秀長の関係を思い出した。

この物語の中で、嘉兵衛がただの商人ではない、冒険者としての一面を見せるときの描写にわくわくした。
黄金の日日や、椿と花水木を読んでいるとき同じようなワクワクした気持ちになった。私自身が、どうも、広大な海を渡り、見知らぬ土地へ旅をして、未知の物事に触れるというタイプの物語が好きなようだ。

この物語の中で、もう一人の凄い人、憧れる人とでも言うべき人を知った。
御影屋 松右衛門。  松右衛門帆(後のズックに匹敵)、鋤簾(海底の砂をとる「じょれん」)、石を海中に吊り下げて運ぶ船などの発明者だという。また、材木を海路運ぶときに、貨物である材木そのもので筏(いかだ)をつくり、それに乗って行けばよいではないかという発想を実際にやってのけた人物であるという。この人の言葉として、
人として天下の益ならん事を計らず、碌々として一生を過ごさんは禽獣にもおとるべし
社会の役に立つことこそ大事と言うあたり、現代の起業・創業セミナーなどでも言われていることに通じる。

高田屋嘉兵衛の成功が最も輝いていたとき、運悪く、ロシア船の捕虜となってしまう。 捕虜の身であり、なおかつ一介の商人でしかない高田屋嘉兵衛が、初めての日露外交交渉に臨むことになる。 カムチャツカという異国にありながら、異国の人々ととの間に芽生える友情と信頼。

小説の中では、江戸時代後期の日本の鎖国の考え方や、世界の中におけるロシア事情が詳しく書かれている。 当時の江戸幕府が、蝦夷地へロシアが南下してくるのではないかという危機感を持ちつつ、鎖国体制の中で国際的思考からはるかに遅れてしまっている実情。 このあたり司馬遼太郎氏の記述を読んでいると、およそ100年後を舞台にした同氏の小説『坂の上の雲』につながる日本の国情が見えてくるような気がした。

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「身の丈起業」のすすめ

by 七色カラス on 12月.14, 2009, under 政治・経済・経営

「身の丈起業」のすすめ
それでも独立したい人へ  「自分に合った仕事」へのA to Z
一ツ橋総合研究所 著 講談社現代新書

バイブルのように持ち歩いて、ふと思い立ったときに、読みたいところだけ、少しずつ読む本。

この本を読んでみるのは二度目だ。一度目に読んだときは、既に個人事業主として起業し、荒波の真っ只中だった。そんな荒波の真っ只中の経営者には、あまり役に立たなかったのだ。

本書は、起業前の準備と、起業してからある程度 事業が軌道に乗ってからの心得に比較的多くのページが割かれているため、なんとか激貧から抜け出さなければならなかった個人事業主には、特効薬とはいえなかったわけだ。

しかし、一旦、個人事業主を廃業し、一歩引いた気持ちで読むと、「あぁ、あの時、ここの項を読んでおけば。。。」という箇所が随所にある。

是非、創業する前の、冷静で、日々の金策に走り回らずにいられる準備期間に、半分でいいから読んで欲しい。

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